「会社員とフリーランスでは、年金制度がどう違うのか」
「自分だけ損をしていないか」
――そんな疑問はありませんか。
会社員は「厚生年金」に加入できますが、フリーランスは「国民年金」のみ。この違いが、将来の年金額に大きく影響します。
本記事では以下の3点を中心に解説します:
- フリーランスと会社員の年金制度の違い
- 受け取る年金額の差
- 損をしないための備え方
自分の働き方に合った年金制度と対策を、一緒に確認していきましょう。
国民年金と厚生年金の違いとは?
フリーランスの中には「年金は会社員向けだから自分には関係ない」と思う方もいます。しかし、公的年金は国民全員が関わる制度で、働き方によって将来の受給額が大きく変わります。
日本の年金は「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」の二層構造です。
- 国民年金:20歳以上60歳未満の全員が加入する基礎年金
- 厚生年金:会社員などが給与に応じて支払い、将来多く受け取れる年金
フリーランスや自営業者は、原則として国民年金のみで、厚生年金には加入できません。
国民年金と厚生年金の違いを比較する
以下に、制度の違いを分かりやすく表にまとめました。
| 比較項目 | 国民年金(フリーランス) | 厚生年金(会社員・公務員) |
|---|---|---|
| 加入対象 | 自営業・フリーランスなど | 正社員・パート・公務員など |
| 保険料 | 月額16,980円(2024年度)※一律 | 月収に比例(会社と折半で約18.3%) |
| 保険料の負担者 | 本人のみ | 本人+事業主(会社が半額負担) |
| 将来の受給額(目安) | 月額約66,000円(満額) | 月額約140,000〜180,000円(収入により変動) |
| 障害・遺族保障 | あり(最低限) | より手厚い |
(※2024年時点の金額を基準にしています)
ご覧のとおり、フリーランスが加入する国民年金は、保険料が一律で負担が軽い一方、将来の受取額は少なくなります。
一方の厚生年金は、収入に応じて保険料が高くなりますが、会社がその半分を負担し、将来の受取額も多くなります。
同じ年数働いても、厚生年金加入者は国民年金のみの人より、老後の受取額が月7〜12万円ほど多くなるケースもあります。
なぜこの違いを最初に知るべきか?
フリーランスとして独立したばかりの方や、これから独立を考えている方の中には、年金制度を十分に理解しないまま国民年金に加入し、なんとなく保険料を支払っているケースが少なくありません。
しかし、厚生年金との違いを理解していないと、「将来いくら受け取れるのか」「老後資金は足りるのか」といった重要な設計に誤差が生じます。
つまり、制度を知らないままでは、気づかないうちに損をしている可能性があるのです。
国民年金と厚生年金、支払い負担はどっちが重い?
フリーランスにとって、最も実感しやすいのは「毎月の保険料負担」です。
老後の年金額よりも、今いくら支払う必要があるかが家計に直結します。
この章では、国民年金と厚生年金の支払額の仕組みの違い、さらに扶養家族(配偶者・子ども)の有無による負担差について、具体的に比較します。
■ 国民年金は定額だが、毎年見直しあり
フリーランスが加入する国民年金は、**収入に関係なく一律の「定額制」**が特徴です。
2024年度(令和6年度)の保険料は月額16,980円、2025年度(令和7年度)は月額17,510円となる見込みです。
ただし金額が固定されているわけではなく、物価や賃金の変動に合わせて毎年見直されます。
実際、近年は毎年数百円ずつ上昇しており、年収には左右されないが年度によって変動する仕組みです。
■ 厚生年金は収入に比例し、会社が半額を負担
一方で、会社員や公務員が加入する厚生年金は、給与に応じた「標準報酬月額」に基づいて保険料が決まります。
2025年度時点の保険料率は約18.3%で、会社と本人がそれぞれ9.15%ずつ負担します。
たとえば月収30万円の場合は以下の通りです。
- 総額:約54,900円(18.3%)
- 本人負担:約27,450円(その半分)
※上記は概算です。収入が高いほど負担額も増えますが、将来受け取る年金額も大きくなります。
■ 家族構成による“見えない負担差”に注意
ここからが重要な比較です。
扶養している家族がいる場合、制度上の差はさらに広がります。
🔹 厚生年金加入者の場合(配偶者を扶養)
配偶者が専業主婦(または年収130万円未満のパート)の場合、第3号被保険者として本人の保険料負担に追加されず年金保障を受けられます。
つまり、「1人分の保険料で夫婦2人分の保障」が可能です。
子どもについては、直接の年金保険料は発生しません。
🔹 国民年金加入者の場合(フリーランス)
フリーランスには「第3号被保険者」という制度はありません。
そのため、配偶者が扶養に入っていたとしても、別個に国民年金に加入し、同じ金額(月額17,510円)を支払う必要があります。
つまり、家族構成が変われば、支払い負担は以下のようになります(すべて2025年度・年額換算):
| 家族構成 | 国民年金(フリーランス) | 厚生年金(会社員本人分) |
|---|---|---|
| 単身者 | 約210,000円 | 約330,000円(※年収300万円想定) |
| 配偶者あり(+1) | 約420,000円(2人分) | 約330,000円(変わらず) |
| 配偶者+子1人(+2) | 約420,000円(変わらず) | 約330,000円(変わらず) |
※子どもは保険料に直接影響しませんが、家計には影響するため記載。数値はあくまで概算です。
ただし、子どもの年齢が20歳となる場合国民年金への加入が義務付けられている為、さらに支払額は増額します。
■ 結論:フリーランスは「自分+家族」の全員分を負担する構造
比較すると、フリーランス(国民年金)は家族が増えるほど負担が増える仕組みです。
一方、会社員(厚生年金)は扶養家族がいても本人分のみで済みます。
そのため、配偶者が無収入やパートの場合、フリーランスは年間で20万円前後負担が増えることがあります。
保険料は毎月・毎年発生する固定費であり、家族構成によってその総額は大きく変わります。
「誰がどこまで負担するのか」を正確に理解することが、制度選択やライフプラン設計の基本です。
フリーランスでも厚生年金に入れる?3つの選択肢
フリーランスにとって国民年金は負担が重く、特に家族がいる場合は厚生年金と比べて不利です。
では、そこから抜け出す方法はあるのでしょうか。
この章では、フリーランスでも厚生年金に加入できる可能性を踏まえ、現実的に検討できる選択肢と注意点を具体的に解説します。
選択肢①:法人化して、自分を“会社員”にする
最も代表的な方法は、法人(株式会社・合同会社)を設立し、自分に役員報酬を支払うことで厚生年金に加入する方法です。法人の代表者でも報酬があれば、健康保険・厚生年金の対象となります。
▶ メリット
- 厚生年金に加入でき、将来の受給額が大幅に増える
- 社会保険に加入することで社会的信用が上がる(住宅ローンや融資などに有利)
▶ 注意点:法人維持コストが確実に上がる
- 毎年の決算申告や法務対応が必要になる
- 税理士、社会保険労務士、司法書士など士業のサポートがほぼ必須となり、コストも年間10万円〜30万円以上に達することが多い
- 事業が不安定な段階での法人化は、かえって負担増になりかねない
特に、税理士や司法書士などの士業で個人開業している方の場合、「法人化=必ずしも有利」とは限らず、相対コストとしては基本的に増加する点に注意が必要です。
選択肢②:「雇用」の枠組みを通じて厚生年金に加入する
もうひとつの現実的な方法は、フリーランスとしての活動を維持しつつ、厚生年金に加入できる形で“雇用”される方法です。
最も一般的なのは、パートタイムや副業で厚生年金適用のある勤務条件を満たす働き方です。
▶ 具体的な条件(2025年時点)
- 週20時間以上の勤務
- 月収88,000円以上
- 勤務期間が2か月超
- 従業員数51人以上の企業(2024年10月以降)
ただし、こうした就労以外にも、最近ではフリーランスに対して厚生年金加入の仕組みを提供する業界団体や支援団体も現れています。
▶ 例:厚生年金適用事業所となっている団体に所属する
- 一部の映像・音楽業界団体
- 特定の協同組合やフリーランス支援団体(例:当協会「はじめてのフリーランス協会」等)
これらは、「業務委託として活動しながらも、所属先が厚生年金の適用事業所である」ため、擬似的に被用者として厚生年金に加入できる形をとる場合があります。
▶ 注意点
- 所属にあたって月額会費・報酬制限などの条件がある場合がある
- 加入の可否や制度の信頼性を慎重に確認する必要がある
- 将来的に制度変更の可能性がある
選択肢③:検討余地があれば「配偶者の扶養」も視野に
これは対象者が限られますが、年収130万円未満かつ配偶者が厚生年金加入者である場合、扶養に入って“第3号被保険者”となることで、自身の保険料負担なしに国民年金にカバーされることがあります。
▶ 活用が考えられるケース
- 出産・育児・介護などで一時的に就業を抑えている
- 一時的に収入が減少しており、保険料の負担が厳しい
- 配偶者が安定した収入を得ており、家庭全体でリスク分散したい
▶ 注意点
- 将来的な年金額は少なくなる(厚生年金に比べて)
- 自身の総収入が低いことを前提とする為自立・再起を前提にした一時的な措置と捉えるのが妥当
厚生年金という“道”はゼロではない
リーランスは原則として厚生年金の対象外ですが、以下の3つの方法で加入の道はあります。
- 法人化して自分を雇う
- 外部の企業などから雇用される形をとる
- 一時的に配偶者の扶養に入る
それぞれ手続きや制度上の注意点はありますが、「フリーランス=厚生年金に入れない」は誤解の場合もあります。制度を正しく理解し、働き方や家計に合った選択肢を検討することが、将来の不安を減らす第一歩です。
将来の“受取額の差”を数字でシミュレーションする
これまで見てきたように、国民年金と厚生年金では制度の仕組みや支払う保険料に大きな違いがあります。特に、フリーランスの場合は、満額でも月6万〜7万円ほどの支給が目安です。
では実際に、厚生年金に加入している場合とどれほど差があるのでしょうか?
数字を使った簡易的なシミュレーションで、現実的な年金の差を具体的に確認してみましょう。
モデルケース:30年間加入した場合の年金額比較
まずは、よくある2つのパターンをベースに比較します。
| 比較項目 | フリーランス(国民年金のみ) | 会社員(国民年金+厚生年金) |
|---|---|---|
| 年齢 | 65歳(受給開始年齢) | 同左 |
| 加入期間 | 30年間(未納なし) | 同左 |
| 月額保険料 | 17,000円前後(定額) | 給与の18.3%(会社と折半) |
| 受給額(概算) | 月額 約50,000〜66,000円 | 月額 約140,000〜170,000円 |
※金額は2025年度水準を参考。厚生年金は年収により変動。
※国民年金の「満額」は40年加入で約66,000円だが、30年ではその約75%程度に減少。
年金額の差は「月に約10万円以上」「年間で120万円以上」に
上記シミュレーションでは、
- フリーランス(国民年金のみ)の場合:月5〜6万円
- 会社員(厚生年金込み)の場合:月14〜17万円
単純計算でも、月あたり10万円以上の差が生まれ、
年間では120万円以上、10年で1,200万円以上の差に膨らみます。
一方の支払額は?
会社員は国民年金より保険料が高いものの、
- 会社が半分を負担する
- 配偶者の保険料が実質ゼロになる(扶養扱い)
という仕組みがあるため、支払った以上のリターンが得られやすい構造になっています。
一方、国民年金は完全に自己負担で、
- 自分と家族それぞれの保険料を支払う必要がある
- 受け取れる年金額も少ない
という点で家計への負担が大きくなります。
つまり、扶養家族が一人でもいる場合は、国民年金のままだと損をしている可能性が高いということです。
なぜこの差が生まれるのか?
厚生年金は、報酬比例型の仕組みになっており、現役時代の収入が高ければ高いほど、将来の年金額も増える仕組みです。
一方で、国民年金は「全員一律」なので、**いくら稼いでも受取額は一定(上限あり)**という点で大きな差がつきます。
最後に、この金額差が何を意味するかをまとめます。
| 年金の種類 | 単身での生活モデル | 家族ありでの生活モデル |
|---|---|---|
| 国民年金のみ | 最低限の生活にも不安あり | 家族を支えるのは困難 |
| 厚生年金込み | 都市部以外では年金だけで生活可能な場合も | 夫婦2人でも老後生活の土台にしやすい |
フリーランスは年金とどう向き合うべきか
ここまで見てきたとおり、フリーランスとして働く人にとって、年金制度は決して無関係な存在ではありません。
むしろ、理解が浅いことで“見えない損”を積み重ねてしまうリスクがある制度です。
■ 国民年金と厚生年金の差は、「構造の差」
受け取れる年金額、保険料の負担、家族の扶養可否。
これらはすべて制度上あらかじめ設計された構造的な違いであり、個人の努力だけでは埋められない領域です。
- フリーランス:自己完結型。保険料は定額で、扶養制度なし。将来の受給額も低め。
- 会社員:分担型。報酬に比例した保険料を、会社と折半。扶養も認められ、受給額も高い。
この制度構造を理解せずに資金計画を立てると、将来の生活設計に大きなズレが生じるおそれがあります。
■ 厚生年金の“選択肢”は想像よりも多い
ただし、完全に閉ざされた道ではありません。
- 法人化して「自分を雇う」形
- 副業や短時間就業による厚生年金適用
- 団体加入や支援制度を活用する仕組み
これらを組み合わせることで、フリーランスであっても厚生年金に近づくことができる可能性があります。
年金制度と「どう付き合うか」が生涯設計に直結する
年金は結局のところ、「使い方次第」です。
そのために必要なのは、今から制度を知ることと選択肢を持つことです。
- 国民年金のみで老後を支える場合:副収入や資産形成が必須です。
- 厚生年金に加入する場合:自分に合った選択肢を見極めることが重要です。
どちらにせよ、将来困らないために今動くことが鍵となります。
我々「はじめてのフリーランス支援協会」では、フリーランスの方が今の支払い状況を簡単にチェックできるシミュレーターをご用意しています。自分にどれくらい差があるか、まずはチェックしてみましょう。
