フリーランスとして活動する上で、帳簿の作成と管理は欠かせない業務の一つです。
事業の収支を把握することは、日々の活動をスムーズに進めるための基盤となり、税務手続きや将来の事業計画にも大きく影響を与えます。
この記事では、帳簿が果たす役割や、必要な種類、作成の基本的な手順について解説します。
また、効率的に帳簿を管理する方法や、近年話題の電子帳簿保存法への対応についても触れ、実践的なポイントをお伝えします。
帳簿は、フリーランスとして事業を運営する上での「経営の羅針盤」とも言える存在です。
日々の収入や支出を記録することで、事業の現状を正確に把握し、健全な運営を支える基盤を作ります。
帳簿には主に以下の3つの役割があります。
1. 収支の可視化
事業活動では、収入だけでなく経費やその他の支出も発生します。
これらを帳簿に記録することで、利益がどれくらい出ているのか、無駄な支出がどこにあるのかを明確に把握することができます。
この情報をもとに、コスト削減や収益向上のための具体的な対策を立てることが可能になります。
2. 税務手続きの基礎資料
確定申告の際には、収支の記録が基礎資料として必要になります。
帳簿を正確に作成しておけば、税務申告をスムーズに行えるだけでなく、控除の適用や節税の検討にも役立ちます。
また、税務調査が行われる場合にも、整った帳簿があれば事業の透明性を証明でき、余計なトラブルを回避できます。
3. 事業計画や資金調達のサポート
帳簿は、将来の事業計画を立てる際にも重要な資料となります。
過去のデータをもとにした分析により、売上の推移や支出傾向を把握し、効率的な計画を立てることができます。
また、銀行や金融機関から融資を受ける際にも、正確な帳簿は信頼性の高い事業者として認められるための重要な要素となります。
フリーランスとして事業を行う場合、日々の取引や経費を正確に記録するために、いくつかの帳簿が必要になります。
これらの帳簿は大きく分けて「主要簿」と「補助簿」に分類され、それぞれ異なる目的で使用されます。
主要簿
主要簿は、すべての取引を体系的に管理するための中心的な帳簿です。
以下の2種類が主要簿に分類されます。
1.仕訳帳
すべての取引を時系列で記録する帳簿です。
取引内容や日付、金額を具体的に記載するため、事業の全体像を把握する基本となります。
記録例としては、「○月○日 クライアントAから売上入金 100,000円」といった形で記録します。
2.総勘定元帳
仕訳帳の内容を科目別に整理して記録した帳簿です。
売上や経費など、カテゴリごとの金額の合計や残高を把握するのに役立ちます。
確定申告の際にもこの帳簿を基に収支を算出します。
補助簿
補助簿は、主要簿を補完する役割を果たします。
以下の4種類が補助簿に分類されます。
1.現金出納帳
現金での収入や支出を記録する帳簿です。
例えば、交通費や事務用品の購入など、小口現金の動きを記録するために使用します。
2.売掛帳
クライアントからの売上が未入金の場合、その取引内容を管理するための帳簿です。
入金予定日や未回収額を把握することで、キャッシュフローの管理が容易になります。
3.買掛帳
事業で購入した商品やサービスで、まだ支払いが済んでいない取引を管理する帳簿です。
支払予定日を明確にすることで、支払い漏れを防ぐことができます。
4.経費帳
経費の詳細をカテゴリ別に記録する帳簿です。
例えば「交通費」「通信費」「消耗品費」といった科目ごとに記録することで、経費の内訳が分かりやすくなります。
どの帳簿が必要か
必要な帳簿は、業種や事業規模によって異なります。
例えば、取引の種類が多い場合は仕訳帳と総勘定元帳が必須となり、現金取引が多い場合は現金出納帳が重要になります。
また、売掛金や買掛金が発生する事業では、それぞれ専用の補助簿を用意することが推奨されます。
帳簿を作成するためには、取引内容を正確に記録し、整理していくことが重要です。
この項目では、具体的な帳簿作成の流れを解説します。
1. 取引データの収集と整理
帳簿を作成する第一歩として、日々の取引に関するデータを集めましょう。
下記を参考に取引データの収集を行いましょう。
領収書やレシートの保管
現金での支出や経費に関する領収書やレシートを日付順に整理します。
事業用と個人用の支出が混在しないように、事業用のものだけを集めることがポイントです。
銀行口座やクレジットカードの明細
事業専用の口座やカードを使用している場合、それらの明細を活用することで効率的に記録が行えます。
電子取引データの活用
オンラインでの取引については、メールで届く明細や電子領収書を保管します。
電子帳簿保存法に対応した形でデータを保存しておきましょう。
2. 取引の分類と仕訳
収集した取引データを以下のようなカテゴリに分けて整理します。
収入の記録
クライアントからの支払い、報酬、事業収益などを「売上」として記録します。
経費の分類
経費を「通信費」「交通費」「消耗品費」などのカテゴリに分け、それぞれの金額を明確にします。
その他の取引
借入金の返済や事業資産の購入など、通常の収入や経費に該当しない項目も正確に分類します。
整理したデータを基に、仕訳帳に記録をしていきます。
この際、発生した取引の「借方」と「貸方」を正しく記録することが重要です。
3. 帳簿への記入
分類したデータを仕訳帳に記録した後、それを基に他の帳簿を作成します。
仕訳帳から総勘定元帳への転記
仕訳帳に記録された取引を、科目ごとに総勘定元帳に転記します。これにより、カテゴリ別の金額が一目で分かるようになります。
補助簿への反映
必要に応じて、現金出納帳や売掛帳などの補助簿にも取引内容を記録します。
4. デジタルツールを活用した効率化
手書きでの記帳も可能ですが、会計ソフトやクラウドツールを活用することで、作業を効率化することができます。
多くのツールでは、自動で仕訳を行う機能や銀行口座と連携して取引データを取得する機能が搭載されているため、時間を大幅に削減できます。
5. 定期的な確認と修正
帳簿は一度作成して終わりではなく、定期的に見直しを行うことが必要です。
月ごとの確認
毎月末に収支の記録を確認し、誤記や漏れがないかチェックします。
年度ごとのまとめ
確定申告時期には、年間の収支を整理し、必要な資料を準備します。
近年、事業運営においてデジタル化が進む中、帳簿や取引データの管理方法にも変化が求められています。その中でも注目されているのが「電子帳簿保存法」です。
この法律に対応することで、デジタルツールを活用した効率的な帳簿管理が可能になります。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法は、帳簿や取引に関するデータを紙ではなく電子データとして保存することを認める法律です。
この法律に基づき、事業者は取引データや帳簿を電子的に管理することができるようになり、保存の負担軽減や業務効率化が期待されます。
2024年から、電子取引で発生したデータについては原則として電子保存が義務化されました。
これにより、従来の紙ベースの管理から、デジタル管理への対応が不可欠となっています。
電子帳簿保存法に対応するための準備
電子帳簿保存法に対応するためには、以下のポイントを押さえておく必要があります。
1.保存要件を満たすデータ管理
・改ざん防止
データが改ざんされない仕組み(タイムスタンプの付与やシステムログの記録)を用意します。
・検索機能
必要なデータを迅速に検索できるシステムを採用します。例えば、「日付」「金額」「取引先」などの条件で検索が可能であることが求められます。
・適切な保存期間
法律で定められた保存期間(7年間など)を守ることが必要です。
2.利用するツールの選定
クラウド会計ソフトや電子帳簿保存法対応のツールを活用することで、要件を満たす形でデータを保存することが可能です。
freeeやマネーフォワード、弥生会計などがおすすめです。
3.社内・個人の体制整備
法律の要件を満たすために、データの取り扱いや保存方法についてルールを整備します。
業務の流れを見直し、紙ベースの管理をデジタル化することを目指しましょう。
電子保存に適した具体的な方法
1.電子取引データの保存
電子メールやオンラインプラットフォームで発行された請求書や領収書は、紙に印刷せずに電子データのまま保存します。
ファイル形式としてはPDFやCSVが一般的です。
2.クラウドサービスの活用
クラウド型の会計ソフトを活用することで、取引データを自動的に取得・保存できます。
これにより、手作業による記録ミスを防ぎ、効率的な管理が可能になります。
3.タイムスタンプの活用
改ざん防止のために、取引データにタイムスタンプを付与します。
これにより、保存データが法的にも信頼性の高いものとなります。
電子帳簿保存法対応のメリット
電子帳簿保存法に対応することで、以下のようなメリットが得られます。
・業務効率の向上
データ管理が簡素化され、検索や確認が迅速に行えます。
・保管スペースの削減
紙の帳簿や書類を物理的に保管する必要がなくなります。
・法令順守によるリスク低減
法律の要件を満たす形でデータを管理することで、税務調査の際にもスムーズに対応できます。
帳簿作成は事業を管理する上で欠かせない作業ですが、日々の業務の中でいくつかの課題に直面することもあります。
ここでは、帳簿作成でよく見られる課題と、その具体的な解決策について説明します。
課題1 記帳が遅れがちになる
日々の業務に追われると、取引の記録が後回しになり、帳簿の作成が遅れることがあります。これにより、取引内容の詳細を忘れてしまったり、記録漏れが発生するリスクが高まります。
解決策
・スケジュールを決める
毎日、または週単位で記帳の時間をあらかじめ設定し、習慣化する。
・デジタルツールを活用
会計ソフトやアプリを使うことで、取引データを自動で取り込む仕組みを導入する。
・即時記録を心がける
取引が発生したら、その場で記録する癖をつける。
課題2 領収書やレシートを紛失する
紙の領収書やレシートは紛失しやすく、記録の正確性に影響を与える可能性があります。
特に経費の証拠となる書類を失うと、税務調査の際に問題になることもあります。
解決策
・クラウド保存を活用する
領収書やレシートはスキャンしてクラウド上に保存し、紛失リスクを回避する。
・専用の保管場所を設ける
レシートや領収書を一括管理できる専用フォルダやボックスを用意する。
・電子化ツールを導入する
スマホで撮影して自動的に分類・保存してくれるアプリを利用する。
課題3 経費の分類がわかりにくい
経費をどのカテゴリに分類すればよいのか迷うことがあります。
不適切な分類は帳簿の正確性を損ない、税務申告で問題が生じる可能性もあります。
解決策
・あらかじめ分類基準を決める
自身の事業に合った経費カテゴリを事前に設定し、それに従って記録する。
・会計ソフトの自動分類機能を活用する
一度設定すれば、次回以降は自動でカテゴリ分けをしてくれるツールを利用する。
・税理士に相談する
分類が難しい場合は、専門家にアドバイスを求めましょう。
課題4 数字や記録ミスが発生する
手作業で帳簿を作成すると、数字の入力ミスや計算の誤りが起きることがあります。
これが累積すると、帳簿全体の信頼性が損なわれる原因となります。
解決策
・会計ソフトを使用する
自動計算機能やミスを防ぐチェック機能があるツールを活用する。
・記録のダブルチェックを行う
記帳後にもう一度内容を確認する時間を設ける。
・定期的な帳簿レビューを実施する
月次で帳簿全体を見直し、誤りを早期に修正する。
課題5 帳簿作成に時間がかかりすぎる
手作業や非効率な方法で帳簿を作成していると、必要以上に時間がかかり、他の業務に支障が出ることがあります。
解決策
・自動化ツールを導入する
銀行口座やクレジットカードと連携し、取引データを自動で取り込む仕組みを構築する。
・定型作業をテンプレート化する
同じ形式での入力作業を効率化するために、Excelテンプレートやソフトの設定を活用する。
・アウトソーシングを検討する
負担が大きい場合は、専門の記帳代行サービスを利用する。
1. 会計ソフト
会計ソフトは、帳簿管理を効率化し、正確さを保つための強力なツールです。
主に以下のような機能が提供されています。
・自動仕訳機能
銀行口座やクレジットカードと連携し、取引を自動的に仕訳帳に登録。
・レポート生成
収支状況や利益計算を自動で行い、必要なレポートを作成。
・確定申告対応
青色申告や白色申告に必要な帳簿データを簡単に作成。
代表的な会計ソフト
・freee
シンプルな操作性とクラウド型の利便性が特徴。スマホアプリも充実しており、移動中でも記帳が可能。
・マネーフォワード クラウド会計
自動化機能が豊富で、個人事業主向けに特化したサービスを提供。
・弥生会計 オンライン
長年の信頼がある定番ソフトで、簡単操作と充実したサポートが魅力。
2. スプレッドシートツール
会計ソフトを利用しない場合、スプレッドシートを使った帳簿管理も有効です。
GoogleスプレッドシートやExcelなどを活用すれば、自分の事業に合わせたカスタマイズが可能です。
・テンプレートの利用
無料で公開されているテンプレートをダウンロードして利用する。
・関数を活用
自動計算やデータの集計に関数を使い、作業効率を向上させる。
・クラウド保存
Googleスプレッドシートのようなクラウド型ツールを使用すると、どこからでもデータにアクセス可能。
3. 領収書・レシート管理アプリ
領収書やレシートの管理は、経費を正確に記録するために重要です。
専用アプリを使うことで、紙の書類をデジタルデータとして保存し、管理が簡単になります。
・CamScanner
領収書やレシートをスマホでスキャンし、PDFデータとして保存。
・Receipt Bank
スキャンした領収書を自動で分類し、会計ソフトに連携。
・スマートレシート
電子レシートを直接受け取り、デジタル管理を実現。
4. クラウド型のデータ保管サービス
データの紛失や破損を防ぐため、クラウドサービスを利用して帳簿データや関連資料を保存しておくのもおすすめです。
・Google Drive
無料で15GBまで利用可能。帳簿データや領収書をまとめて保管。
・Dropbox
フォルダごとにデータを整理しやすく、チームとの共有にも便利。
・OneDrive
Microsoft Officeとの連携が強力で、ExcelやWordファイルの管理に最適。
5. 電子帳簿保存法対応ツール
電子帳簿保存法に対応したツールは、取引データの保存や検索が簡単にできるため、効率的な帳簿管理をサポートします。
・freee電子帳簿保存法対応機能
自動で取引データにタイムスタンプを付与し、法令に準拠した保存を実現。
・マネーフォワード電子帳簿保存サービス
電子取引データをそのまま保存し、必要なデータを簡単に検索可能。
・King of Time(キンタイ)
勤怠管理から経費精算まで一元化し、電子保存に対応。
ツール選びのポイント
・自分の事業規模やニーズに合った機能を持つものを選ぶ。
・コストと使いやすさを考慮する。
・導入後のサポート体制や操作性もチェック。