会社員からフリーランスに働き方を切り替える際、悩みの種となるのが「健康保険」の選択です。
会社を退職すると、会社の健康保険から離脱し、「国民健康保険」に加入するか、もしくは退職後も「任意継続被保険者制度」を利用して会社の保険を継続するかを選ぶ必要があります。どちらが自分にとって有利かは、収入や家族構成によって異なります。
本記事では、国民健康保険と任意継続それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較し、シミュレーションを通じて、状況に応じた最適な健康保険の選択方法を解説します。
まずは、国民健康保険と任意継続の基本的な違いについて理解しておきましょう。
国民健康保険は、市区町村が運営する保険で、フリーランスや自営業の方が主に加入する健康保険制度です。一般的に、国保(こくほ)と略されています。所得に基づいて保険料が決まるため、前年の収入が少ない場合は比較的低い保険料で加入できるのが特徴です。世帯単位で加入しますが、加入者の人数に応じて保険料が増加する場合があります。
運営主体:市区町村
加入対象:フリーランス、自営業者、退職者など
保険料:前年の所得に基づき算出される
任意継続被保険者制度は、会社を退職しても、それまでの健康保険を最大で2年間継続できる制度です。任継(にんけい)とも呼ばれています。
国民健康保険は、前年(1月から12月)の所得をもとに翌年度(4月から翌年3月)の金額が決まります。そのため、退職後にすぐ国民健康保険に切り替えると、収入がない状況でも退職前の高所得を基準とした高額な保険料が発生することがあり、家計に大きな負担となります。その負担を軽減する方法として、本制度が2年間に限り利用できるようになっています。本制度を利用するか、国民健康保険に加入するかは、名前の通り自由に選択できます。
本制度の加入には条件があり、退職前に健康保険に2か月以上加入している必要があります。また、退職後20日以内に申請を行う必要があり、保険料は会社が負担していた分も自己負担となるため、基本的に退職前の2倍程度になります。ただし、家族を扶養に入れることができるため、2年間の間、家族の保険料を負担せずに済むメリットがあります。
運営主体:前職の健康保険組合
加入対象:退職前に2か月以上健康保険に加入していた者
保険料:退職前の給与(標準報酬月額※)に基づき算出される
※給与などの1月分の報酬を一定の範囲ごとに区分したもの
以下、国民健康保険と任意継続のそれぞれのメリットとデメリットを解説していきます。
まずは、国民健康保険のメリットとデメリットについて解説します。
●所得が少ない場合に保険料が安くなる
国民健康保険は前年の所得に基づき保険料が決まります。本記事後半のシミュレーションをご覧いただくとわかるように、会社員時代での所得が低かった場合には、任意継続よりも国民健康保険の方が保険料が安くなることが多いです。
●転身して1年目の収入が低かった場合、2年目からの保険料が安くなる
フリーランスに転身してすぐは、会社員時代よりも収入が減少するという人も多いと思います。その場合、2年目に支払う保険料は1年目の保険料よりも少なくなります。
×扶養のシステムがない
会社で入っていた健康保険とは異なり、これまで扶養として加入していた家族が一人ずつ被保険者としてカウントされるため、人数に応じて保険料が増加します。収入が少ない場合でも、家族が多いと保険料が大きくなる可能性があります。
×フリーランスになった直後の収入が上がると保険料が高くなる
逆に、フリーランスになってからすぐの1年の収入が高くなれば、2年目からの保険料が上がります。任意継続の制度の継続は2年のみで、3年目以降は国民健康保険に一本化するとはいえど、2年目の保険料を節約できないのはデメリットといえるでしょう。
次に、任意継続のメリットとデメリットについて説明します。
●保険料の上限がある場合に保険料が少なくなる
会社が加入する健康保険組合によっては、任意継続の保険料に上限が設定されていることがあります。本記事後半のシミュレーションでわかるように、この上限により、前職の収入が高かった場合でも保険料を一定の金額に抑えられます。
●扶養のシステムがあるため家族がいる場合は保険料が割安になる
任意継続では、家族を扶養に入れることができるため、配偶者や子どもがいる場合、個別に保険料が発生しません。つまり、家族が多い場合には国民健康保険に比べて割安になることが多いです。
×単身者や家族が少ない場合には割高になる場合がある
扶養のシステムを活用できない単身者や、扶養家族が少ない場合、国民健康保険のほうが保険料が安くなるケースが多く、任意継続は割高になる可能性があります。
×保険料額が収入の有無に関わらず2年間変わらない
保険料額は会社員時代の給料からの計算が適用され、それが2年間変わることはありません。例えば、会社を退職してからしばらく休職をした影響で収入が下がったとしても、翌年度の保険料額は低くならないので注意が必要です。その場合は、途中から国民健康保険に切り替えましょう。
国民健康保険と任意継続では保険料の計算方法が異なります。おおまかな計算方法は下記の通りとなっています。
◆国民健康保険
所得割+均等割+平等割=保険料(1年間の金額)
◆任意継続
標準報酬月額×保険料率=保険料(1か月の金額)
では、世帯主が東京都世田谷区に住む40歳未満で、世帯の年金収入が0円の場合を想定して、収入や家族構成の異なるいくつかのケースを用いて、国民健康保険と任意継続の保険料を比較してみましょう。
なお、国民健康保険の計算は給与所得を国税庁の試算ツールで算出した給与所得をもとに、世田谷区の試算ツールを用いて行います。任意継続の計算は、令和6年度全国健康保険協会の場合の標準報酬月額を参照し、保険料率を10%と仮定して行います。
◆国民健康保険
給与所得202万円で計算→1か月で20690円◆任意継続
26万円(標準報酬額)×10%→1か月で26000円
このように、単身者かつ年収が300万円程度の場合、任意継続よりも国民健康保険の方が負担が少ない結果になります。
給与は夫が300万円、妻が100万円で、任意継続の場合は妻と子供を夫の扶養に入れていると想定します。
◆国民健康保険
給与所得202万円(夫)45万円(妻)0円(子)で計算→1か月で31815円◆任意継続
妻、子の年収がともに103万円を超えていないため、社会保険料の増額はなく、ケース1と同様の保険料となる。26万円(標準報酬額)×10%→1か月で26000円
このように、家族が扶養に入っている場合、任意継続の方が保険料が安く抑えられるケースがあります。
全国健康保険協会(けんぽ)では、令和5年度の標準報酬月額の上限が30万円となっています。これを踏まえて計算を行います。
◆国民健康保険
給与所得436万円で計算→1か月で43096円◆任意継続
30万円(標準報酬額)×10%→1か月で30000円
このように、収入が多く任意継続の標準報酬月額の上限が適用される場合、国民健康保険よりも任意継続の方が有利になるケースがあります。
上記の特徴とシミュレーションを踏まえて、どちらの健康保険が適しているかについてまとめます。
◆国民健康保険の方がお得なケース
単身者や家族が少ない方、収入が低めの方の場合は、国民健康保険の方が保険料が抑えられることが多く、経済的負担を軽減できます。
◆任意継続の方がお得なケース
家族が多く、扶養が活用できる方や、収入が高く健康保険組合の保険料上限の適用がされる方の場合、任意継続の方が有利になる可能性があります。
このように、収入や家族構成の状況により、国民健康保険または任意継続でどちらが保険料が安くなるかが異なります。そのため、会社員から独立をする場合は、状況に応じてどちらがお得になるかを見極めてから保険を選びましょう。
なお、シミュレーション結果はあくまで試算であるため、ご自身の年齢・住まい・家族構成・会社で加入している保険の種類等も鑑みて計算してみてください。